INTERVIEW
HIGHLINE LIQUID
ヴァイブスでつながる
境界線をとかすバー
―人が集う文化発信地へ
冷蔵庫にびっしりと並ぶポートランドビール。テラスで談笑するゲスト。一瞬、日本を飛び出して海外にいるような、不思議な高揚感に陥る。
「ハイラインリキッド」は、ビールに特化した専門酒屋だ。メニューはビールとサイダー。缶ビールは80種以上、日本ではここでしか飲めない希少品も多数並ぶ。樽クラフトビールは「キモチでつながっている」という醸造所から厳選し、常時10種ほどを用意する。「この場ではビールと音楽、ビールとアート、ビールと植物、ビールと洋服、ビールと人物が融合します。」と、この店を手がけるdubさんは話す。
店内では友人でもあるポートランドビールメーカー・GIGANTIC BREWINGのTシャツなども手に入る。
「原宿で生きる人びとにこの場所を知ってもらい、使ってもらうことで、一緒におもしろい文化を産めたら最高です」。
ポートランドとのつながりは、10年前から。「中目黒にもお店を持っているのですが、そこに飾っていた壁の絵を気に入ったポートランドのギャラリーのボスがきっかけで、交流が始まりました。ポートランドの自由な気風とHatosbar(dub氏の店)のヴァイヴスが共振し、仲間が増えていったんです」。原宿の店を手がけるにあたってインスパイアされたのも、ポートランドの酒屋だ。「街の人びとに愛され、近所にいたら行かざるを得ない場所にしたい」。


―めくるめくクラフトビールの世界
クラフトビールとは、小規模な醸造所が手作りするビールのことで、個性的かつバラエティに富む。材料の種類や量、入れるタイミングによって、無限の味わいが生まれると言われている。
バーテン職の長い、若き店長のタケルさんに、おすすめを尋ねた。例えば、ベアリック社の「INTO THE VOID」。VOIDとは“虚空”を意味するのだという。スタイルはクラフト界でも人気の高いアメリカンIPA(インディアペールエール)だが、一味違う。「絶妙に骨太なホップの苦味を追っていくと、いつの間にか虚空に飛ばされます」。「DARK CZECH LAGAR」は、チェコスタイルの黒ラガー。「ビール発祥の地チェコへのオマージュでオールドスタイルの黒なんですが、すばらしく繊細で、発酵とモルトのバランスが匠です」。ボルドー色のカスケード社「FRANBOISE NORTH WEST」は、ラズベリーの香りと味わいが絶妙。「ユーズドのワイン樽にビールとともにオレゴンベリーを漬け込み熟成されています」。
自社輸入ビールはポートランドが中心だが、 現地のレジェンド・コモンズ社で修行した和泉俊介さんが手がける東京狛江のIzumi Breweryもそろえている。「和泉さんのビールはセゾンスタイルがベースです。ひたすらウマイです !! 」とdubさん。
和泉さんは大学時代にあるクラフトビールを飲んで衝撃を受け、自分でもブリュワリーをたち上げるほどその世界にのめり込んでいった。「電気が走る感覚でした。レシピが同じでも、酵母の種類が違うだけで味が変わります」と和泉さんが教えてくれた。BEER CELLER SAPPORO(HIGHLINE LIQUID)としてこだわるのは「良質に偏った液種と感覚」。好きな一杯を見つける楽しみがある。
―“ビールがなる木”を目指して
ひと息ついたり、時には暑さや雨を避けるために、人びとが木の下を求めるように、引き寄せられるようにゲストがやってくる。「人種や役職、さまざまな人たちの“壁”をとかすのが、酒場の醍醐味ですから」。
ゲストもスタッフも、誰もがこの場所を楽しんでいるのが分かる。「働くスタッフの喜びはお客さんに伝わるので、とても重要です」とdubさんは言う。クラフトビールをこよなく愛する店長のタケルさんは、中目黒のお店から任されてきた。ビールグラスは冷蔵庫で冷やすのではなく氷で冷やすことで、きめ細かな泡をつくる。彼の人柄と丁寧な仕事やサービスも、このバーの魅力を形づくっている。
今後はアート壁やテラスもさらにアップデートしていく予定だ。JINGUMAE COMICHIの他店舗のメニュー、お寿司やバーガー、焼き鳥を持ち込むのもOK。ぜひ独自のマリアージュを楽しんで欲しい。また缶瓶のみでなく、自前のグラウラー(ビール用の水筒)で樽ビールを持ち帰ることもできる。
ビールを介して広がる、人の輪とヴァイブスを甘受しに行きたい。
