INTERVIEW
小籠包マニア
閉じこもっているスープが皮からあふれだす瞬間
その奥にある物語に思いをはせる
―なぜ餃子ではなく小籠包なのか
都内を含め、全国各地に中華点心の店舗を展開するマニアプロデュース。原宿でのオープンに当たっては、小籠包を選んだ。オーナーの天野裕人さんにその理由を尋ねると、「北京に住んでいたことがあるのですが、家の近くにすごく好きな小籠包のお店がありました。テーブルで蒸してくれるので、目の前で見られる楽しさがあった。それをいつか再現したいと、ずっとウズウズしていたんです」。
神田店では実現できなかったが、JINGUMAE COMICHIでは電気容量を確保、都内では初めて、各テーブルにIHコンロを設置した。蒸篭(せいろ)が運ばれてきてから4分、フタを開けると、湯気が一気に立ちのぼる。レンゲに小籠包をのせ、箸で穴を開けたら、流れ出るスープを味わう。それから、フーフーと冷ましながら、口に含む。しっかりと味がついているので、まずはそのままでいただく。それから、好みで針生姜と黒酢を添えながら(これも絶品)、2個めを食べ進めていく。いくらでも食べられてしまいそうな美味しさだ。
小籠包の味は4種。豚肉をベースに鶏がらスープを使った「プレーン」、旨み成分たっぷりの牛モモひき肉を使った「牛肉」、蟹味噌と蟹の身がぎっしり詰まった「蟹黄醤」、餡に砕いたトリュフを混ぜ込みさらに大きなトリュフのカケラものせた「松露」だ。どれも捨てがたいが、特に印象に残ったのは上海蟹の蟹ミソを使った「蟹黄醤」。口に入れた瞬間に、濃厚な蟹の風味が広がる。


―オリジナル魯肉飯(ルーローハン)に会えるのは平日ランチだけ
ランチは、JINGUMAE COMICHIで初めてチャレンジしている。魯肉飯に小籠包2種、その他の点心2種、日替わり小鉢、スープ、ザーサイ、杏仁豆腐、選べるお茶(中国茶も充実)がついて、平日限定。メインの魯肉飯は、稲熊一樹料理長が考案した。「日本の方にも好きになってもらえるように工夫しました。小籠包と一緒に食べてもらうので、さっぱりではなくこってりな味つけに。お腹いっぱいになってもらえると思います」。オイルに八角やマスタードシードなどのスパイスの香りを移してから豚肉、野菜を入れて圧力鍋で煮込む。取材当日も、仕込み中のスパイスのいい香りが店内を満たしていた。「台湾では定番の料理ですが、魯肉飯だけどカレーのような、食べたことのない味になっていると思います」と、店舗責任者の飯塚雄大さんは胸を張る。
また、台湾の人たちの大好物「美味蒸鳳爪(もみじ)」もおすすめだという。鶏の足(もみじ)の黒豆ソース蒸しで、骨までしゃぶりながら、おかわりをする人もいるのだそう。樽に入った紹興酒は、10年と25年熟成をそろえる。小籠包にも隠し味で入れているので、ぜひ一緒に味わってほしい。
―自信のあるものだけが、印象を残す
「最大のライバルはコンビニ。あのクオリティはすごい。だからこそ、素材とストーリーで勝負しなければなりません。皮も餡も、オリジナルにこだわって開発を重ねました。一から作っているという物語が大切だから」と天野さん。皮が薄いのは、テクニックがあるから。つけ焼き刃ではないこだわりと努力が、「小籠包マニア」を人気店に押し上げてきた。
「麻婆豆腐はないの?」といった声もあるが、あえて応えない。通販もテイクアウトもしない。本当に自信のあるメニューに絞り、現場の演出で満足させる。
作り置きや冷凍はせず、店舗で皮を作り、注文が入ってから伸ばして餡を包む。「伸ばしたり、包んだりするところも見て欲しくて、でき上がっていた内装の壁を壊して窓にしました」。台湾を意識したという店内には、現地のかわいらしい陶器も並んで、ライブとともに楽しませてくれる。
